身体的な苦痛や精神疾患などが見当たらない慢性不眠(精神生理性不眠)は高齢者に多く見られます.そして,眠りに対するこだわりや思い込みが非常に強いことが特徴です.
例えば,不眠に悩んでいない人に「いつも何時に寝ていますか?」と聞くと,たいていは即答できません.その日のスケジュールや体調によって,早かったり遅かったりするのが普通です.
ところが,不眠に悩んでいる人は「9時です」「10時です」と即答します.それは,床に入る時間をきっちり決めているからです.そして,8時間眠りたい,9時間眠りたい,という強い欲求を持っています.こうしたこだわりを持つことが,不眠を悪化させ,慢性化させることにつながることが多いのです.
眠りの要求水準が高すぎる
私たちの身体は,床に入ったからといってすぐに眠れるようにはなっていません.
代謝が落ち,体内温度が下がることで,徐々に眠りに入る準備が整ってくるのですが,その時刻は朝起きて光を浴びた時刻などによって1-2時間は変動します.
何時に寝る,と決めてしまうと,自然な調節機能とのずれが生じてうまく眠れないことがあるのです.
高齢になると必要な睡眠時間は減ってきます.
ちなみに60歳以上の健康な方々の平均睡眠時間は6時間台半ばです.
早く床について眠ろうと,床の中でじっとしている人が多いのですが,必要以上に長く床の中にいると,眠りが浅くなったり,夜中に目が覚めたりして,睡眠の質は低下します.
それが不安や緊張を引き起こし,ますます不眠が悪化するという悪循環に陥ってしまいます.
「8時間神話」のウソ
睡眠薬を多く服用している患者さんの話を聞いてみると,「床の中に9時間いるのに,5~6時間しか眠れない」と言う人が多いのです.
こういう人にいくら薬を出しても効きません.
生理学的な睡眠に対する欲求を超えて眠らせるのは難しいし,健康にもよくないでしょう.
こういう人にいくら薬を出しても効きません.
生理学的な睡眠に対する欲求を超えて眠らせるのは難しいし,健康にもよくないでしょう.
「理想的な睡眠時間は8時間」という「8時間神話」が根強いのですが,「8時間寝る人よりも,7時間,6時間の人の方が長生きする」というデータもあります【下図】.
多くの人は「たっぷり眠って,すっきり目覚めることが健康の証し」と考えがちですが,朝起きるなり,はつらつとしてやる気に満ちているというのは,体内時計の仕組みを考えると考えづらいのです.
寝る前はぼんやりしているクールダウンの時間,起床後には徐々に活動性が上がっていくウォームアップの時間が1~2時間あって当然です.朝起きて「もう少し寝たいな」と思うくらいでちょうどいいのではないでしょうか.
寝る前はぼんやりしているクールダウンの時間,起床後には徐々に活動性が上がっていくウォームアップの時間が1~2時間あって当然です.朝起きて「もう少し寝たいな」と思うくらいでちょうどいいのではないでしょうか.